サクランヌのテスト

ハマジリの町の冒険者ギルドに到着した『鷹の爪』とエリカとサクランヌ。

今回のクエストの顛末をギルドに報告し、各人が報酬を受け取ると、サクランヌがエリカの腕を取ってグイグイと引っ張る。

「ねえねえ、エリカちゃん。 あっちで2人の今後について話をしましょ?」

「ちょ、ちょっと、そんなに強く引っ張らないでくださいよ」

エリカは『鷹の爪』の面々への挨拶もそこそこに、サクランヌに袖を引っ張られてギルドの2階にある飲食店へと入った。 飲食店といっても、その実態はほとんどバーである。

カウンター席に並んで座り飲み物を注文して、まず口を開いたのはエリカのほうだった。 自らのパーティー移籍に反対はしなかったものの、サクランヌに関して色々と知りたいことはあったのだ。

「サクランヌさんはお一人で活動してるんですか?」

「最近まで戦士の相棒がいたんだけどね、そいつ年を取って引退しちゃった。 しばらく1人でやってたんだけど、魔法使い1人だとやっぱり大変だね」

そもそも普通は魔法使いにソロ活動は無理なんじゃないだろうか? そう思いながらエリカは次の質問をする。

「で、どうして私をパートナーに選んだんですか? あと、パーティー・メンバーをもっと増やさないんですか?」

「エリカちゃんをパートナーに選んだのはエリカちゃんがポテンシャルの高い戦士だから。 そして私がシルヴァリンだからよ。 パーティー・メンバーを増やさないのは、人が多いと疲れるから」

エリカの問いに答えるときサクランヌは少し硬い表情だった。 サクランヌの回答はエリカには物足りなかったが、サクランヌの表情を見ると突っ込んだ質問をするのは躊躇われた。

「もう訊きたいことはないかしら? じゃあ、今後の話をしましょう。 私がランクBで、エリカちゃんもランクB相当の能力ということだから、私たちが引き受けるクエストは主にランクBのクエストになるわ」

「ランクBってどれくらいの強さなんですか?」

「レベル50相当の実力ね。 立派なベテラン。 年齢で言えば30~40代かしら。 ランクBで冒険者を引退する人も少なくないわ。 逆に言えば、若くしてランクBなら極めて優秀ってことよ」

「サクランヌさんのように、ですか?」

「んー、私は微妙かな。 該当するのはむしろエリカちゃんのほうじゃない?」

「えー、そんな... 私なんて」と言いつつエリカは満更でもなさそうだ。

「さて、それじゃあ今からエリカちゃんの実力を見せてもらいましょうか」 銀色の瞳に薄い笑みを浮かべてエリカの顔を覗き込むサクランヌ。 「エリカちゃんの実力はパグに聞いただけだもの。 自分の目で確認しておきたいわ」



サクランヌに連れて行かれたのは町外れにある建物だった。 倉庫のような石造りの建物である。

「この建物は私の魔法の師匠の所有物なの。 師匠はもうとっくに死んじゃったけどね。 でも師匠がかけた魔法はまだ残っていて...」

そこでサクランヌは話を区切り、呪文めいた言葉を唱えて入り口の鉄扉に手を触れる。 すると鉄扉が音もなくスーッと開いた。

「でね、こうして建物に入ることは出来るんだけど、ほらあそこを見て」

サクランヌが指差すほうには等身大の彫像がある。 等身大といっても、人の像ではなく人と同じサイズの魔物の像である。 人と同じように手足があるが、背中から羽が生えているし顔は獣面だし手足の先が鷲爪になっている。 いわゆるガーゴイルである。

「ガーゴイルの警備機能を解除できないから、ガーゴイルの下にある地下への階段に入れないの」

「地下には何があるんですか?」

「それを知りたいの」

「なるほど」

「それでね? エリカちゃんにあのガーゴイルを壊して欲しいんだぁ。 私の水魔法はガーゴイルを倒すのに向いてないから」

「たしかにガーゴイルは呼吸しないわね」

だからラットリングを窒息させた水魔法は効かないはずだ。

「ガーゴイルのように硬い無生物を瞬時に倒す魔法は持ってないんだ」

「ガーゴイルってどれぐらい強いんですか?」

「エリカちゃんなら強いからダイジョブだよ」

サクランヌがそう言う根拠は不明である。

「ちょっと目覚めさせてみるね」

そう言ってサクランヌがガーゴイルに近づくと、ガーゴイルは両目を赤く光らせて背中の羽を広げ、威嚇するかのように両手を広げて鋭い爪を前に向ける。 普通の感性の持ち主であれば「近づくなと警告されている」と理解するだろう。

「ここまでがギリギリの安全圏。 これ以上近づくとガーゴイルが襲って来るの」

サクランヌがガーゴイルから離れると、ガーゴイルも静かな彫像へと戻る。

「こんな感じ。 じゃあ、ガーゴイルを斬ってもらえるかな」

「もしも斬れなかったらゴメンね」

エリカは大してためらいもせず、鞘から剣を引き抜くと安全圏から彫像までの距離を一瞬で詰めて彫像に斬りつける。 彫像はガーゴイルへと変化する間もなく、動かぬ彫像のまま左腕を付け根から切断された。 ゴトンと重たい音を立てて床に落ちるガーゴイルの左腕。

そこでようやくガーゴイルが両目を赤く光らせて動き始めるが時すでに遅し。 エリカは一息に右腕と頭部を付け根から切り飛ばし、続けて右足と左足も切断。 ガーゴイルの五体は分断されて床に積み重なるようにして崩れ落ちてしまった。

「なかなかやるじゃない、エリカちゃん。 やっぱりアナタは私のパートナーにふさわしいわ」

サクランヌは、エリカから見ても可愛らしい顔に満面の笑みを浮かべている。 エリカはサクランヌのテストに合格したようだ。


地下室に保管されていたのは宝箱に入った謎の種が1つだけ。 他に目ぼしいものは何も無かった。 サクランヌは明らかにがっかりした様子でエリカに言った。

「この種はエリカちゃんにあげるよ! エリカちゃんがガーゴイルを突破したわけだしー。 植えると何かが生えるかも」

師匠が意味ありげに保管していた遺品を捨てるのは気が引ける。 かといって種に興味もない。 そういうわけでサクランヌはエリカに種を押し付けたのだ。

遺品の種は楕円形をしていて長さは2cmほど。色は真っ黒だ。 サクランヌにもエリカにも何の種なのかがわからない。

種からどんな植物が芽を出すのだろう? サクランヌの師匠は一体どういうつもりで種を厳重に保管していたのだろう? まさか食用というわけでもあるまい? そもそも、ちゃんと芽が出るのだろうか?

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