サクランヌ

「そろそろ死んだかなー」 誰にともなくシルヴァリンがそう言う。

ワリッキが何のことかと様子を見ていると、地面に横たわるラットリングの口内から水がスルスルと出てきて合流し、元の大きな水たまりとなった。 シルヴァリンの操る水は使い捨てではないらしい。

シルヴァリンとワリッキのもとに『鷹の爪』の面々が集まって来る。 マクランドの打撲傷はパグルが回復魔法で癒やした。 エリカが戦っていたラットリングも大勢の仲間が一挙に倒れたのを目の当たりにして逃げ去ってしまった。

『鷹の爪』を代表してパグルがシルヴァリンに例を述べる。

「おかげさまで九死に一生を得ました。 ありがとうございます、サクランヌさん」

パグルはシルヴァリンと知り合いのようだ。

「礼には及ばないよ、パグ。 だっけ?、あんた名前パグだっけ?」

「パグルです」

「あ、パグルね。 ゴメンゴメン」

「援軍はサクランヌさんお一人ですか? むろん、サクランヌさんだけで十分だったわけですが」

パグルの問いにワリッキが口を開く。

「ギルドまでは行ってない。 町へ戻る途中の山道で出会ったんだ」

「そうそう。 ハマジリの町に戻る途中でワリッキーと出くわしたの。 それよりさ、アナタは誰なの?」

サクランヌはエリカの顔を覗き込んでそう尋ねた。 近くで見ると、サクランヌは小柄なエリカよりなお小柄だ。

「エリカっていいます。先日『鷹の爪』に加入したばかりです」

「ふ~ん、エリカちゃんかー。 あたしはサクランヌ。 見ての通りのシルヴァリンで魔法使いだよ。 ランクはB。 エリカちゃんのランクは?」

「えーっと... Fかな?」

そう答えながらエリカが確認を求めるようにパグルを見ると、パグルは頷きエリカに代わって答える。

「エリカのランクはFです。 ただし、すでにランクB並みの実力があります。 身体能力に限ればの話ですが」

ランクB並みの実力と聞いてサクランヌの顔が強ばる。

「ふ、ふーん、そうなの。 ラ、ランクFにしてランクBのじ、実力ね。 へー、スゴイじゃない。 やっぱりアナタは特別なのね。 で、エリカちゃんは戦士っぽい格好をしてるけど魔法は使えるのかな?」

「試したことないけど使えないと思います。 魔力が低いので」

エリカの返答を聞いてサクランヌの顔の強ばりが和らぐ。

「そっかー、ちなみに魔力はどれぐらいなの? あとレベルは?」

この人はどうしてこんなに色々と尋ねて来るんだろう? エリカはそう思いながらも律儀に答える。

「レベル4で魔力は12です」

エリカのステータスを聞いてサクランヌはホッとした様子だ。

「そうなんだー。 そっかそっか」

そうしてしばらく「そうかそうか」とつぶやいたのちサクランヌは出し抜けに言い出した。

「ねえエリカちゃん、私とコンビを組まない?」



町に戻る頃には、エリカが『鷹の爪』を脱退してサクランヌとコンビを組むことで話が決まっていた。

この決定にエリカの意思はほとんど反映されていない。 決定ファクターの70%がサクランヌの強い要望で、残りの30%は『鷹の爪』の面々の比較的消極的な意向といったところだ。

『鷹の爪』がエリカの脱退に賛成したのは、彼らがエリカを持て余し気味だったためだ。 今回の戦いでもそうであったように、エリカは高い能力を生かして『鷹の爪』のフォローに回るよりも独断専行に走ってしまうことが多い。

『鷹の爪』とエリカとでは能力に差があり過ぎるため、エリカにとっては大した危険でないものが『鷹の爪』の4人には大きな脅威となる。 何を脅威とみなすかの基準が異なるわけだ。 そのためエリカと『鷹の爪』の4人は互いに相手の行動をうまく予測できない。 エリカにしてみれば当然の行動が『鷹の爪』にとっては常軌を逸した行動である。

エリカは最初から強かったうえ冒険者として未熟なので仕方がないことではあるし、このまま『鷹の爪』と行動を共にしていれば両者の息も合って来ることだろう。

しかし、『鷹の爪』とエリカの能力差は開く一方である。 今回の戦いでもエリカは大量の経験値を得た。 エリカはレベル4でしかないから、レベルが1つのみならず上がっているに違いない。

それに対して『鷹の爪』はどうだろうか? エリカよりも随分とレベルが高いというのに、倒したラットリングの数は4人分を合わせてもエリカの半分以下である。 4人の中に今回のクエストでレベルが上がるものは誰もいないだろう。

住んでいる世界が違う。 それが『鷹の爪』の4人がエリカに対して抱く感想であり、エリカの脱退に賛成する理由であった。

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