ラットリング退治再び

訓練プログラムを修了したエリカは『鷹の爪』と合流した。

今日は合流後初のクエストである。 クエストの内容はラットリング退治だ。

「えー、またラットリング退治ですか?」

「ラットリングの増加が問題になっているからね。 退治の依頼も多いのさ」とパグル。 彼はエリカの説明係となっている感がある。

「今回のターゲットにはラットリング・シャーマンが含まれているらしい。 シャーマンは魔法を使うからね。 前回のように1人で突っ走っちゃダメだよ」

そうこうするうちに『鷹の爪』は現場に到着する。

今回の舞台は養鶏場だ。 ラットリングの集団が養鶏所の柵を壊して敷地内に入り、放し飼いにされている鶏を追いかけ回している。

鶏は素早く逃げ回るがラットリングはもっと素早い。 何匹かのラットリングはすでに鶏を捕まえ、鶏の羽根をむしって齧りついている。 地面に散乱する鶏の白い羽根、養鶏場一帯にけたたましく鳴り響く鶏の鳴き声。

ラットリングの数は全部で20匹足らず。 養鶏場の従業員は建物に閉じこもり、鶏が襲われるのを手をこまねいて見ているしか無い。

「待ってたよ! 早いとこ退治してくれ」

養鶏場オーナーは、こうして話している間にも鶏の数が減っていくのに居ても立ってもいられない様子である。

「お任せください」

『鷹の爪』は、ラットリングが鶏を相手に狼藉の限りを尽くす養鶏場内へと足を踏み入れた。

目下のところラットリングたちは、冒険者一行の到来にも気づかず鶏に夢中である。

パグルがメンバーに指示を出す。

「まずはマクランドに魔法で攻撃してもらおう。 ターゲットは、あそこでシャーマンを中心に集まっているグループ。 シャーマンに魔法を使われると厄介だから先制攻撃だ。 マクランドの魔法でラットリングがオレたちに気付いて襲いかかって来るだろうから、戦士がそれを迎え撃つ」

マクランドがすぐに呪文の詠唱を開始する。「レシビステアルグナマラノティシアケテベオ...」

マクランドは複雑なジェスチャーを交えて呪文を唱えている。 この世界で呪文が唱えられるのをエリカが目にするのは初めてだ。 転生前の世界の漫画やゲームと違って魔法使いが杖を持たないのは詠唱にジェスチャーが必要だからなのだろう。

マクランドが詠唱を完了するとシャーマンの集団に小さな爆発が生じた。 前回のクエストで見たのと同じ爆破の呪文だ。 前回よりも威力が小さいようだが、養鶏場に大きな被害が出ないように配慮したのだろうか。

「エリカ、シャーマン集団の状態を確認してきてくれ。 生き残りがいればトドメを頼む。 トマシェとワリッキは襲いかかって来るラットリングへの対処だ」

ワリッキというのは『鷹の爪』のメンバーである。 極めて無口な戦士で、エリカは彼の声を聞いた覚えがない。



パグルの指示に従い駆け出したエリカだったが、ラットリング・シャーマンの集団へと辿り着くまでにも単独行動のラットリングが何匹かウロウロしていて、エリカに襲いかかろうとする。

エリカの速力をもってすれば襲いくるラットリングを置き去りにして走る抜けるのも容易だが、どのみちすべて退治するのだ。 エリカはシャーマンへと至るルート上のラットリングすべてを斬り捨てることにした。

1匹目: 棍棒を手に待ち、走り迫るエリカを受けるラットリング。 エリカの到来に合わせ完璧なタイミングで棍棒をフルスイングするも、エリカはこれを急激なストップ&ステップバックでかわす。 空振りの余韻で態勢を崩すラットリング。 エリカはそこですかさず間合いを詰め直し、ラットリングの脳天から股下にかけて神剣を振り下ろす。 切れ味の悪さに(エリカの中で)定評のあった神剣だが、ラットリングの体は見事に左右に両断された。 脳天唐竹割りである。

2匹目: 鶏を貪るラットリング。 エリカの急接近に気付くと鶏を放り出し、四つん這いになってエリカに襲いかかる。 ラットリングは鶏の血にまみれる口を開き、巨大な門歯でエリカの左足に齧りつこうとする。 足元への攻撃はエリカの意表を突いたが、レベル4になったエリカの速度はラットリングの3倍を優に超す。エリカは左足をひょいと後ろに振り下げて噛み付き攻撃を簡単に避けると、振り下げた反動を利用してラットリングの顎をしたたかに蹴り飛ばした。 蹴られたラットリングは「ギャッ」と声を上げて後方に吹っ飛び、絶命してしまった。

3匹目: 1匹目と2匹目があっさりと葬られるのを見ていた3匹目はエリカに背を向けて逃げ出したが、エリカはこれに簡単に追いつき、逃げるラットリングを背後から袈裟懸けにバッサリと斬って殺した。 やはり剣の切れ味は悪くない。「結構いい剣よね、この神剣」


3匹の並ラットリングを倒して、ラットリング・シャーマンのもとに到着したエリカ。 シャーマンを含む5匹のラットリングがマクランドの呪文にやられて地面に倒れている。

手近なほうからラットリングを剣先で突っついて生死を確認してゆく。 これは死んでいる。 これも死んでいる...

そしてシャーマンを突っつこうとしたときである。 シャーマンがカッと目を見開き「ムギャっ」と一声鳴いたかと思うと、シャーマンとエリカのあいだの空中に小さな火の玉が6つ出現した。 赤黒く禍々しい色をしたビー玉サイズの炎である。

炎のビー玉の周辺の空気が高熱で揺らめき、エリカは炎のビー玉から数十センチほど離れているのにチリチリと熱を感じる。 炎のビー玉はどれほどの高熱だというのだろうか?

「シャーマンの魔法っ?」

炎のビー玉の危険性を察知したエリカは機敏に後ろに飛び退るが、ビー玉はかなりの速度でエリカの動きを追尾する。 数回にわたり飛び退り続けたところで、エリカの動きは止まってしまった。

動きが止まったエリカに灼熱のビー玉襲いかかる。

「くっ」 エリカは革の装甲に守られた両腕を顔の前で交差させ顔を守ろうとする。 しかし炎のビー玉は明らかに高熱だ。 エリカの防具は女神様からもらった革製の鎧。 革の鎧は可燃物だろう。 エリカを炎のビー玉から守るどころか燃え出すのではないだろうか?

動きを止めて防御態勢に入ったエリカ目がけて炎のビー玉が飛来し、エリカの前腕や腹部に次々と着弾する。 ビー玉はすべて防具に防がれ体への直撃は免れたものの、エリカの毛髪が焦げる匂いが辺りに立ち込め、皮膚にも熱による痛みを感じる。

エリカは腕を交差させたまま、革鎧が燃え上がるのではないかと身構えたが、ビー玉が消滅し身を焦がす熱気が収まっても革鎧が炎上した様子はない。 防御態勢を解いて鎧に目をやると、鎧には焦げ目すら付いていなかった。

シャーマンの魔法が大したことなかったのだろうか? そんなはずはない。 炎のビー玉の熱さはただごとではなかった。 女神様からもらったこの革鎧が可燃物じゃないのかな?

ともあれシャーマンにトドメを刺さなくては。 近づいて状態を確認すると、シャーマンはまだ息はあったものの意識を失っていた。 あの炎のビー玉は最後の死力を振り絞ってを作り出したのだろう。 エリカはシャーマンにトドメを刺すと、『鷹の爪』の仲間たちのもとへと駆け戻った。

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