ラットリング退治

クエストの内容はラットリング退治だった。 町の北側に広がる農園に少なからぬ数のラットリングが群れているというのだ。

「他のパーティーがすでにラットリングと交戦中でね」 パグルは早足で歩きながらエリカに説明する。「最初は6匹ほどだったのが、後から後からわいてきて今では20匹にまで増えているらしい」

「ラットリングって、どんな魔物なんですか?」

エリカが尋ねると、パグルは少し意外そうな顔をしつつも教えてくれた。 ラットリングはネズミに似た頭部を持つヒューマノイドなのだそうだ。 身長は130cmほどと人間よりも小柄だが動きが素早く、棍棒と巨大な門歯で攻撃を仕掛けて来るのだという。

現在ラットリングと交戦中のパーティーはランクF。 素人に毛の生えた程度の戦闘能力しか持たない集団である。 ラットリングもランクF相当の魔物なので、20匹は明らかに荷が重い。『鷹の爪』はほとんど駆け足で農場までの道のりを急いだ。


農場に近づくと、畑の真ん中でランクFパーティー6人が大勢のラットリングに囲まれているのが見えた。

4人の戦士が魔法使い2人を庇っているが、ラットリングたちに厳しく包囲されて戦闘行動のためのスペースが乏しい。 あれでは戦士たちも存分に剣を振るえまい。

『鷹の爪』の5人はランクFパーティーの窮状を見て、早足から駆け足へと移行する。

『鷹の爪』が戦闘現場まであと100mの距離まで来たところで、ランクF戦士の1人がとうとうラットリングの攻撃をまともに食らってしまった。 巨大な門歯で膝に噛みつかれてしまったのだ。 ラットリングの門歯が戦士の膝にゾブリと食い込んだのが遠目にも明らかである。

噛みつかれた戦士は悲鳴をあげながらも噛み付いたラットリングを切り捨てるが、剣を持つ腕に別のラットリングに棍棒を叩きつけられ戦士は剣を落としてしまった。

その様子を見て、『鷹の爪』の先頭を走る戦士トマシェが声に焦りを滲ませる。「あの戦士のところから崩れだすぞ」 彼は金属製の鎧を身に着け大きな盾を背負っているが、装備の重さにもかかわらず息を切らせていない。 さすがはレベル18の戦士といったところか。

エリカのレベルは1。 本来なら『鷹の爪』と同じペースで走り続けられるはずもないのだが、涼しい顔で皆に付いていっている。 女神様から貰ったチート『身体能力3倍』のおかげである。

その『身体能力3倍』の全力をさきほどからエリカは解き放ちたくて仕方なかった。 そこで彼女は考える。 この状況なら私一人で速度を上げて抜け駆けする理由は十分じゃないのかしら? 目の前で戦士がピンチに陥っているのだから。

「先に突入しますね」 エリカはそう言い残すとフルスピードで走り出した。全力で走るエリカの速度は時速50km、『鷹の爪』の面々の2倍近くである。

まばたきするほどの間に戦闘の現場に到着したエリカは、走る勢いに乗ってそのままにジャンプ! ランクFパーティーをぐるりと取り囲むラットリングの輪の外周を飛び越して、ランクFパーティーの間近に飛び降りる。

エリカの着地地点は、膝を噛まれ武器を手落とした戦士の頭部に今まさに棍棒を打ち落とさんとするラットリングの背中である。 エリカに着地されたラットリングは棍棒を手にしたままバンザイの格好で地面に倒れ込んだ。

着地したエリカは鞘から神剣を抜き、襲いかかって来るラットリングに無造作に斬り付ける。 「えいっ!」

エリカの剣速はこの戦いの場の誰と比べても桁違いに速く、ラットリングはろくに反応できなかった。 エリカの剣撃は、ラットリングの胴体をまともに捉える。 女神様から貰った剣はやはり切れ味が悪くラットリングの体を切断するには至らなかったがラットリングは吹き飛ばされ、別のラットリングに激突して戦闘不能となった。



ラットリングという種族は、弱い者に対しては強気だが強い者に対しては弱気である。 エリカの勢いに気圧されたラットリングの群れが少し後ずさる。 仲間の背中を押して矢面に立たせようとする者までいる有様だ。

こうしてラットリングの包囲網が後退して、ランクFパーティーは一息つけることとなった。 戦士は息を整え、魔法使いは回復魔法で仲間の傷を癒やす。

ランクFパーティーが態勢を整えるのを尻目に、エリカはラットリングの群れに突撃を敢行。 ラットリングの動きは並の人間よりも素早いのだが、エリカはそのラットリングよりさらに3倍も素早く動き、手に持つ神剣でラットリングを次々と豪快に打ち倒して行く。

ラットリングは前後左右からエリカに襲いかかるが、エリカは次々と居場所をかえて的を絞らせない。 実はラットリングの棍棒が数度どころではなくエリカの体に当たっているのだが、熱狂状態にあるエリカは棍棒を当てられているのを気にも留めない。

エリカの怒涛の攻撃に浮足立ったラットリングの群れは1匹、2匹と逃走し始め、ついには群れ全体が逃げ出し始めた。 レベル1の戦士に過ぎないエリカが独力で20匹ものラットリングを潰走へ追い込んだのである。

ラットリングを追撃するかどうかエリカが迷っていると、潰走するラットリング集団の中心部で爆発が生じ、何匹ものラットリングが肉片となって周囲に飛び散る。 飛び散らなかった個体もひどい傷を負っている。

「何事かしら?」 驚くエリカに背後から声がかかる。

「ひとりで先駆けしてFラン・パーティーを助けたのはいいけどさ。 ひっどい戦い方だねー。 初心者丸出し」

声の主はマクランドだった。マクランドは『鷹の爪』で攻撃魔法を担当する女魔法使いである。 さきほどの爆発は彼女が放った攻撃魔法らしい。

「ふむ、身体能力こそ高いが他の面は普通のレベル1というわけか」 戦士トマシェも同意見のようだ。 トマシェはそれだけ言うと、エリカの傍らを通り過ぎて、傷を負い弱っているラットリングに次々とトドメを刺していく。

2人に酷評された不満が顔に出ていたのだろうか、パグルが宥めるようにエリカに説明する。 「ラットリング退治ではね、ラットリングを逃さないことが大切なんだよ。 ところがエリカ、君は大部分のラットリングを逃してしまうところだった」

エリカには訳がわからなかった。 どうしてラットリングを逃してはいけないの?

エリカの心を読んだかのように、パグルがエリカの疑問に答える。「ラットリングは繁殖能力がとても高いのさ。 だから倒せる機会にはなるべく多くを倒しておかなくちゃならない」

「ラットリングを逃がすと逃した分だけ繁殖するラットリングが増えるってこと?」

「その通り。 そうして増えたラットリングは農作物を荒らしたり、家畜や乳幼児を襲ったりする。 さあ、生き残っているラットリングを始末してしまおう」

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