パーティーを追放されたスライムが世界経済を牛耳る話(後編)

「よしスライス、初仕事だ。 こっちに来てくれ」

そうしてパーティーの仲間に案内されたのは何も無い部屋だった。 私と共に部屋に入って来る4人の仲間たち。

「ぷるぷるッぷる?」

私の問いかけに返答は無く、ドアの鍵がガチャリとロックされる。

こんな何も無い部屋で、どんなクエストをすると言うのだろう?

「今回のクエストはな。 メタル・スライム狩りだ」

メタル・スライム... って私のことかー!? 混乱する私にパーティーの仲間(?)は説明を続ける。

「メタル・スライムを倒すと大量の経験値が入るのさ。 なーに、心配するな。 オレたちの仲間には僧侶がいる。 オマエを殺した後で、また生き返らせてやるさ」

別の冒険者が私を嘲笑うかのように付け加える。

「もっとも、その後でまた殺すけどな。 オマエを何度も殺せば何度も大量の経験値を入手できるってわけよ」

冒険者パーティーが企んでいた身勝手極まりない陰謀にショックを受けつつも、私は考えていた。 こいつらごときに私のメタル・ボディーを傷つけられるはずはない。

しかしそんな私の考えも、すぐに打ち砕かれた。

「こんな剣を見たことあるか?」 そう言って冒険者の1人が鞘から金色に輝く刀身を抜き放つ。 「コイツはな、エテルニウムっていう金属でできた剣だ。 鋼鉄だって易々と切り裂いちまう。 オマエのメタル・ボディーもなっ!」

エテルニウムの剣で私に打ち掛かる冒険者。 戦士を生業としているだけあって、堂に入った動きである。 私は素早さにものを言わせて彼の攻撃をかわしたが、いつまでもかわし続けられるはずもない。 そして、この部屋には隠れる場所も隙間も無い。

このままでは、いつか切られてしまう。 私は部屋のドアを目指して駆け出した。

しかし別の冒険者がドアの前に立ちふさがる。

「おっと、貴重な経験値チャンスを逃してたまるかよ。ふへへへ」

そう言って彼は杖で私の体を押さえつける。

「今だ。やっちまいな、エドウィン」

エドウィンと呼ばれた戦士がふるうエテルニウムの剣は私のメタル・ボディーをいとも容易く切断し、私は死んだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

蘇生の呪文により甦ったとき、私の体は冒険者の手に押さえつけられていた。

「おっ、生き返ったぜ」

「よし、じゃあ次はオレの番だ」

そうして私はまた斬り殺された。

斬り殺されては蘇らされる。 それが何度繰り返されただろうか? 死と復活の間で意識が朦朧とし、自分が生きているのか死んでいるのかわからなくなり、私は意識を手放した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

意識が蘇る。

どうやら私は生きているようだ。

状況を確認すると、私の体はエテルニウムの剣で中途半端に切断されており、周囲には4人の冒険者たちが横たわっている。

何が起こったのだろうか? そんな疑問はさて置き、私はとりあえずエテルニウムの剣から自分の体を抜き去った。 切断された体は少し時間が経てば治るだろう。

冒険者の様子を見ると、彼らは生きていた。 察するに、私を殺しては蘇生させるのを繰り返すうちに疲れ果てて全員が寝落ちしてしまったのだろう。

私がこの部屋に連れ込まれてから何時間あるいは何日が経ったのか不明だが、とにかく逃げ出すチャンスだ。

床に寝転がる4人の冒険者を目覚めさせないように気を付けながら、私は部屋のドアを静かに開けると部屋の外へと逃げ出した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

人間たちに捨てられたり裏切られたりした私は、すっかり人間不信に陥っていた。 もう二度とパーティーには加入するまい。

しかし、人里を離れて野に帰るつもりはなかった。 人間が作るコインには捨てがたい魅力があったのだ。

そういうわけで私は再び冒険者ギルドを訪れている。 しかし今日は、クエストの依頼を探すだけでなくステータス・チェックも行うつもりだ。

ギルドには自分のステータスを検査する魔法の道具がある。 この道具を使うことで冒険者は、自分のレベルや体力・筋力・知力・素早さなどを把握できるだのだ。

どうして私が今日ステータスを調べる気になったのかって?

それは、先日の事件のあと体の調子がどうにも以前と違っているからだ。 以前と違うと言っても、調子が悪いわけではない。 むしろ良いといってもいい。 殺されることによっても経験値が入るのだろうか? 何度も殺されたために私はレベル・アップしたのだろうか?

とにかく、そのあたりを知るために私は一度ステータスを検査することにした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ステータス検査の結果を見て私は驚いた。

はぐれメタルにクラス・チェンジしていたのだ。 もう二度とパーティーには加入しないと決意したのがきっかけだろう。

はぐれメタルはメタル・スライムよりさらに防御力が高く、素早く、おまけに強力な攻撃呪文まで使える。

そんな私はソロでありながら1つのパーティーと互角以上に戦えるだけの戦闘力を有していた。 速度が速いというのは移動速度や回避速度が速いというだけに留まらない。 攻撃魔法の詠唱速度も速ければ、呪文で消費した魔力が回復するペースも速いのだ。

はぐれメタルになった私はモンスター退治や要人警護などのクエストも行うようになり、いつしか高ランク冒険者として冒険者ギルドに頼られる存在となった。

そんなふうに冒険者としての私の名声が高まるにつれ、私がはぐれメタルであることを知る者は増えた。

それに伴い、私の命を狙う者も増えた。

はぐれメタルを倒したときに得られる経験値がメタル・スライムに比べても桁違いに多いためである。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

莫大な経験値に目がくらんだ冒険者たちは街中でもお構いなしに私の命を狙う。 私を殺そうと必死になった冒険者が家屋を破壊したケースも五指に余る。

『迷彩』スキル? もちろん使ったさ。 しかし、はぐれメタルを狩ろうとするほどの高ランク冒険者には通用しないことが多い。

こんな状況では冒険者を続けることもままならないが、今さら野生に戻ることなどできようはずもない。

そこで私はコインに擬態することにした。 どうしてコインなのかって? コインが大好きだからだよ。 人間への意趣返しを兼ねたイタズラでもある。

コインへの擬態には、レベル50になったときに覚えたスキル『分裂』と、レベル40になったときに『迷彩』から進化して生じたスキル『擬態』を用いた。 『分裂』で私は無数の「私たち」に分裂し、その各々が『擬態』でコインに化けたのである。

夜中のうちに路上に移動した「私たち」は、乞食に拾われて貨幣の流通に入り込んだ。 数え切れぬ人たちの手を渡りながら、「私たち」は財布の中でコインのフリを続けた。

「私たち」は単にコインに化けていただけではない。「私たち」と同じ財布に入れられたコインを食べた。 コインは「私たち」の大好物なのだから。 そうしてコインを食べて大きくなるたびに「私たち」は分裂し、分裂した「私たち」ともどもコインのフリを続けた。

「私たち」が入っている財布に普通のコインを入れると、そのコインも「私たち」の一員になってしまうというわけだ。

川やドブに落ちてしまった「私たち」もいたが、そんな「私たち」は夜中のうちに拾われやすい路上にまで移動して経済の流れへ復帰した。

長い年月を経るうちに私の『擬態』スキルは向上し、あらゆる種類のコインそっくりに擬態できるようになった。 さまざまなサイズ・形状・模様の銅貨・銀貨・金貨そっくりに化けられるのだ。

そしていつしか、世界中に流通するコインの大部分を私が占めるようになった。

世界中で流通する「私たち」はテレパシーでつながっている。 世界中の「私たち」が一斉にコインのフリを止めたらどうなることだろうか? 私は世界経済の命運をこの手に握っているのだ。 そんな満足感を覚えつつ今日も私はコインのフリを続ける。
この作品は以上でおしまいです。 次のページからは別の作品になります。

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