パーティーを追放されたスライムが世界経済を牛耳る話(前編)

山道を進む冒険者3人のパーティー。

「おっ、スライムじゃねーか」

「トリス、火魔法で焼いちまいな」

「やだよめんどくせえ。スライムなんかほっとけ」

「まあ待て、魔物使いのオレがペットにしてやろう。そろそろ初夏だしな」

「ショカ?」

「夏の始まりってことだ」

「ああ、その初夏ね。 どうして初夏だとスライムなんだ?」

「まあ見てろって。 それっ、ドミネイト・モンスター!」

ドミネイト・モンスターはモンスターを支配する魔法である。

魔法をかけられたスライムは、うねうねと体をくねらせ魔物使いの足元まで移動した。 そして、彼の脚を登り首筋にまで到達する。

「うおー、冷っけー。 これよこれ。 これが夏のスライムの醍醐味だ」

羨ましそうに魔物使いを眺める他の2人。 夏と言うにはまだ早い季節だが、山道を登る彼らは暑い思いをしていたのだ。

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魔物使いに支配されたとき、スライムには自我が芽生えた。

そのスライムというのが私である。

夏のあいだ、私は3人の冒険者と共に冒険を続けた。 モンスターを退治したりダンジョンに潜ったりして、私はレベル5まで上がった。

これまでに覚えたスキルは『溶解』と『テレパシー』だ。

『溶解』はスライムの体に取り込んだ物を溶かすスキルである。 時間をかければ金属や鉱物でさえ溶かせる。 レベル2で覚えた。

『テレパシー』はレベル4で覚えたスキルで、思念により人間と意思の疎通ができる。 知性のある生物であれば人間でなくてもコミュニケーションをとれる。

夏のあいだ、私は幸せだった。

パーティー・メンバー3人の間で大人気だったからだ。

「スライス、こっちおいで。 首筋に巻き付いてちょうだい。 うわぁー、ひんやりしてて気持ちいー」

「あっ、ずるいぞ次はオレの番だって言ってただろ」

「いやいや、おれの番だから」

こんな具合に引っ張りダコだったのだ。

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そして秋が来て...

私はパーティーを追放された。

「オマエもういらないから。 シッシッ付いて来んな」

追放の理由は「ぺっちょりと冷たい」というものだった。

人間とは身勝手なものである。 暑い季節には「ヒンヤリして気持ちいい」という理由でもてはやしたスライムを、寒くなると「ぺっちょり冷たい」という理由で捨ててしまうのだ。

むろん私は一生懸命抗議した。

「プルプルプル」

「いや、オマエぜんぜん役に立たないし」

「プルプルルッ!」

「そんなこと言ってもオマエさあ、攻撃力はないし移動速度も遅いから、首に巻きつけて防具として使用するしかないじゃん! 夏にはいいけど冬には冷たいじゃん!」

「プルぷるっ?」

「いや、可愛くもねえよ。 もふもふじゃねえし」

こうして私はパーティーを追放された。

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パーティーを追放された私は、ソロの冒険者として活動を続けることにした。 冒険者ギルドの職員とは顔なじみだったし、職員たちは捨てられた私に同情的だった。

私が冒険者を続ける理由は、クエスト報酬としてギルドから支払われるコインである。

私は『溶解』スキルにより何でも消化吸収できるが、人の手により精錬/加工されたコインは何かの純度が高いためか自然に存在する物より美味しいのだ。 コインの味を覚えた私はもう、人の世を離れては生きていけなかった。

しかし戦闘力も移動力も低い私に1人でできるクエストなどあったのだろうか?

あったのである。 害虫駆除や暗殺などがそれだ。

害虫駆除のクエストでは、建物の隙間から屋根裏や床下などに忍び込み辺り一面に体を薄くのばしてネズミやゴキブリなどの害虫を待ち受ける。 そしてやって来た害虫を捉えて消化する。

暗殺クエストでも同様にターゲットが住む建物の隙間から内部に侵入し、深夜にベッドで眠るターゲットの顔に覆いかぶさって窒息死させる。

スパイ活動というクエストもあった。 ターゲットとなる建物の隙間から内部に侵入し、盗み聞きをしたり秘密文書を盗み出したりするのだ。

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数々のクエストをたった1人でこなし続けるうちに私のレベルは20を超え、『高速溶解』と『迷彩』というスキルを習得した。

『高速溶解』を習得してから、私のクエスト成功率は大きく上昇した。 建物に侵入する隙間が無い場合にも建物の壁を溶かして自分で隙間を作れるようになったからだ。『高速溶解』を習得するまでは、建物に隙間がなければ、その時点でクエスト失敗が確定だった。 建物の壁を溶かすのに半日以上かかるからだ。

『迷彩』も便利だった。『高速溶解』で壁を溶かすあいだ自分の存在を隠すことが出来たし、街中を移動するときに意地悪な人間やイタズラっ子にちょっかいを出されずに済むようになった。『迷彩』により私のQOL(生活の質)は格段に上昇したと言えよう。

レベル20に達したのと同時に私はメタル・スライムへとクラスチェンジした。 クエスト報酬としてギルドから支払われたコインを食べ続けたためだろう。

メタル・スライムは普通のスライムよりも体が固くて防御力が高く、魔法攻撃に対する耐性も高い。 さらに移動速度も驚異的にアップする。 プルプルするだけだった体が鋼の筋肉とも言うべきメタル・ボディーに変化したのだから、素早さが上がったのも当然かも知れない。

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メタル・スライムになってから、私は街中で『迷彩』を使うのを止めた。 大抵の攻撃は私に通用しないし、人よりも速い速度で移動できるようになったため、『迷彩』を使う意味がなくなったのだ。

誰も私を害することはできない。 そんな無敵感にひたりながら街中をスイスイと移動し、冒険者ギルドに入る。

手頃なクエストはないものかとクエスト掲示板に歩みを進めていると、私に声をかける者があった。

「スライス、オレたちのパーティーに入らないか?」

なんと! この私の力が必要だと言うのか。 さもありなん。 今の私は物理攻撃も魔法攻撃も防ぐうえ、素早さも人一倍。 昔の私とは違うのだからな。

私は大急ぎで承諾の意志をその冒険者に伝える。

「ぷるるんぱっ!」

「はっはっはっ、そんなに慌てて返事をしなくてもいいのに。 これからよろしくな!」

久しぶりのパーティー・プレイである。 以前の私とは違う。 もう役立たずなどと呼ばせないぞ。

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