エリカの突撃

ハマジリの町を出発したラットリング討伐隊は、ラットリングの集落から2時間ほど離れたところまでやって来た。

「少し早い時間だが、今日はこの辺りで野営しようか」

フスティンの言葉に、討伐隊は足を止めて荷物を地面に降ろす。

「夕食の前に明日の戦闘の方針を決めておこう」

フスティンがそう言うと、エリカが元気よく手を挙げる。

「ハイ、ハイ!」

「はい、じゃあエリカ君。 意見をどうぞ」

「私が集落に突撃してトノサマの首を討ち取ればいいと思います!」

「頼もしい意見をありがとう。 他に意見はないか?」

次に発言したのはナルロという名の女性魔法使い。 フスティンのパーティーに所属するランクB冒険者だ。

「エリカさんが突撃すればラットリングが逃げ出すでしょうから、エリカさん以外は集落の周囲を取り囲むように散開しておきましょう」

「よし、じゃあエリカ君に正面から攻め込んでもらおう。 他のメンバーは集落の周囲に散会し、逃げるラットリングに対処だ。 トノサマだけは絶対に逃さないようにな」

フスティンが意見をまとめて話し合いは終了した。


翌朝。 討伐隊一行はラットリングの集落が見えるところまでやって来た。 森の中に作られた広いスペースに竪穴式住居のごとき建物がいくつも建てられている。

集落を目の当たりにした討伐隊の面々が血の気の引いた顔を見合わせて言い合う。

「報告にあったより随分と数が多い。 500匹ぐらいいるんじゃないか?」「ラットリングだらけだ」「こんなにも増えてたなんて...」「爆発的に増殖する一歩手前だ」「この辺りの動植物が食い尽くされてしまうわ!」「今こうしている間にも子作りしてるかも」「一刻も早く退治しないと」

討伐隊メンバーが狼狽するのも無理はない。 討伐隊は総勢20名だが、目の前にひしめく膨大な数のラットリングを相手にするには100人以上の人手が欲しいところだ。

「どうやらエリカ君頼みになりそうだ」

フスティンに真剣な面持ちで言われエリカは頷く。 彼女は最初からそのつもりだ。

「任せといて。 じゃあ、行ってくるわね」

「ああ。頼んだ」

他のメンバーも口々にエリカに声をかける。 「頼んます、エリカさん」「ハマジリの町の命運はエリカさんの肩にかかってます」「頑張って、エリカちゃん!」

「さあ、我々も行こうか」 フスティンが他のメンバーに指示を出す。「各員、集落の周囲に散開してくれ」



討伐隊が潜む茂みから姿を現しラットリングの集落に近づくエリカ。 ラットリングたちの視線にその身を晒し、真正面から大胆に歩み寄る。 ラットリングの注意を引き付けるためである。 最近では『バーサーカ』というイメージが定着しつつあるエリカだが、少しは知恵も回るのだ。

エリカの意図した通り、エリカの接近に気付いたラットリングたちがワラワラと寄り集まって来る。 その数は20匹ほど。 集まってきた中にはチーフの姿も見える。 「ギュイギュイ」「ギュアギュウ」などと20匹分の鳴き声がやかましいほどに響く。

近づいてきたラットリングを見てエリカは、ラットリングの武器が以前と違うことに気付いた。 多くの者が棍棒ではなく石槍を手にしているのだ。 粗末ではあるが弓を持つ者もいる。 さらに、ラットリングの肉付きがよく毛並みも艷やかである。

住居を建てるほどに文明レベルが向上したのだから、棍棒よりも複雑な武器を作れても不思議ではない。 肉付きがよくなったのも食糧事情が改善されたからに違いない。 つまり、トノサマ・ラットリングの登場によりラットリングの戦力も増強されたというわけだ。

しかしエリカにとって、そんなことは問題ではない。 武器やら肉付きやらで並ラットリングの強さがランクFからランクE相当になったところで、エリカにとっては依然として雑魚である。


ラットリングは相手が強いとわかると逃げてしまう。 そこでエリカは、ラットリングたちがギリギリの距離に近づくまで手出しをしなかった。 なるべく多くのラットリングを一挙に倒すためだ。

出来るだけ多くのラットリングに囲まれるように自分の居場所を微妙に調節するエリカ。 そして自分を取り巻くラットリングたちが一斉に攻撃をしかけてきた瞬間、エリカも攻撃を開始した。 体を回転させつつ、周囲のラットリングたちに続けざまに斬り付けていく。 まるで竜巻である。

攻撃を開始したのはラットリングが先だったが、その攻撃が当たる前にエリカの神剣はラットリングたちを切り倒していた。 エリカを取り囲むラットリングたちが地面に崩れ落ち、辺りに血しぶきが立ち込める。

そうして久しぶりにラットリングを倒してエリカは気付いた。 神剣の切れ味が良くなっていることに。

エリカはこの1週間の高ランク・クエストで、初見のモンスターばかりを斬っていた。 そのため神剣の切れ味が増していることに気付いていなかったのだが、こうして1週間ぶりにラットリングを斬って、エリカは神剣の性能が上がっているのを実感した。 以前は多少切りにくかったラットリングの毛皮もスラッと切れる。

「ロースーって名前だっけ、あのガメついアイテム鑑定人の言ってたことは本当だった」

エリカが強くなるほどに神剣の切れ味が増す。 ロースーはそう言っていた。 一週間前にラットリングを斬ったときよりエリカのレベルは20ほども上がっている。


至近の群れを倒したエリカは続けざまに少し離れたラットリングに飛びかかり、手当たりしだいに斬り倒し始めた。 エリカの行動速度は並ラットリングの6倍以上。 ラットリングたちは武器を構えてこそいたものの、棒立ちのままエリカに斬り殺されていった。

斬り殺されたラットリングの中には、ラットリング・チーフも数匹含まれていた。 しかしエリカの認識においては、並ラットリングとラットリング・チーフは同じ扱いである。 エリカの戦闘力の前では並とチーフの能力差など無きに等しいのだ。

100匹近くは倒しただろうか。 エリカによる一方的な虐殺がしばらく続いたのち、ラットリングたちはようやく逃げ始めた。 どのラットリングも、エリカが同胞(はらから)をゴミのように殺戮していく様子に心を奪われて思考が停止していたと見える。

遅ればせながら蜘蛛の子を散らすように逃げ出したラットリングたち。 だが、エリカはこれを追わなかった。 四方八方に散らばったラットリングを一匹ずつ始末するのは面倒だし、集落の周囲では討伐隊の仲間が集落から逃げるラットリングを待ち構えているはずだ。


集落の広場でひとしきり暴れたエリカ。 次なるターゲットはトノサマ・ラットリングである。 トノサマはどこ? エリカは集落を見回すが、それらしきラットリングは見当たらない。

住居の中かな? あの一番大きな住居かも。

エリカが集落の中で一番大きな住居に足を向けようとしたとき、その大きな住居の中から1匹のラットリングが姿を現した。 エリカがこれまでに見たことのないタイプのラットリングだ。 あれがトノサマだろうか?

その珍種のラットリングは4匹のチーフを従えていた。 珍種ラットリングはチーフよりも体格が小さいのに妙な迫力がある。 むろん、エリカが脅威に感じるほどではないが。

エリカが珍種を観察していると、珍種が大きな鳴き声を立てた。

「キョキョキュールキュキュキョ」

その鳴き声はラットリングの鳴き声とは思えないほどに朗々と集落の隅々まで響き渡る。

すると、珍種の鳴き声を聞いたラットリングたちがエリカ目がけて殺到して来た。 それまでエリカから逃げていたというのに、クルリと方向を変えて襲いかかって来たのだ。 恐怖に呑まれて逃亡していた手下を呼び戻すとは大した支配力である。 魔法的な力が働いているのかもしれない。

「望むところよ。かかって来なさい」

エリカは好戦的な言葉を吐いた。 殺到する数百匹のラットリングのことごとくを1人で倒し尽くすつもりらしい。

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