も~っとラットリング退治

エリカがヤマブキにエサの生肉を与えていると、ギルド職員のマヒュロがひょっこりとバーに顔を出した。

「いたいた、エリカちゃん。サクランヌさんも。 君たちに頼みがあるんだ」

マヒュロさんが私たちに頼みごと?

「頼みってなんですか?」

「ラットリング退治に協力して欲しいんだ」

え~、またラットリング?

「他の冒険者を当たってくれません? 私はもうラットリングを卒業しましたから」

「待ちなって、エリカ。 私たちに頼みに来るぐらいだから、なんか訳ありなんだよ」

「そうなんですよ、サクランヌさん。 実はですね...」

そうしてマヒュロは語り始めた。 なんでも、ラットリングの急激な増加に警戒心を抱いたギルドが偵察隊を派遣したところ、ハマジリの町からそう遠くないところにラットリングの集落が確認されたのだという。

ラットリングは普通は洞窟などに住む。 住居を作れるほどの文明を持たないからである。 そんなラットリングが住居を作り集落に住む。 それが意味するのはトノサマ・ラットリングの出現である。

トノサマ・ラットリングはランクCのモンスターで、群れを形成するラットリングの数が一定数を超えると生まれると言われている。 そして、トノサマ・ラットリングを擁する群れは文明レベルが急速に上昇する。

今回の偵察隊はトノサマ自体は視認していないが、集落が存在する時点でトノサマが出現しているのは明らかだ。 早急に手を打たねばハマジリの町が滅びかねない...

「どうしてトノサマが出現しただけで町が滅ぶんですか? 集落を作るようになっただけなんでしょう?」

エリカの問いにマヒュロではなくサクランヌが答える。

「ラットリングの文明レベルが上がるとラットリングの繁殖率が格段に上昇するんだょ。 群れの食料事情や戦力が改善されて死亡リスクが低下するから」

「トノサマの出現によって、ラットリングの絶大な繁殖能力が余すところなく発揮されるようになるわけだ」とマヒュロ。「トノサマが率いる群れを放置していると個体数が4桁に達する。 ラットリングと言えど数千匹に攻められればハマジリの町などひとたまりもない」

「数千匹も!?」

「今ならまだ数百匹程度だが、ラットリングは出産サイクルも成長速度もネズミ並みの早さだからね。 一ヶ月も経たないうちに数千匹だ」

「そういうわけでラットリング退治の戦力を募ってるんだけど、ランクAパーティーは遠征中だし、手が空いてる高ランク冒険者が少なくて弱ってるんだよ。 エリカちゃんには主戦力としてぜひ参加して欲しい」

エリカがこれほどまでにマヒュロに頼られるのには理由がある。 この1週間のうちに多数の高ランク・クエストを完遂したためエリカのレベルは一挙に29まで上がり、彼女の能力値はとうとうランクS冒険者を超えるに至ったのだ。

ランクSはレベルにして90超、心身の成長に影響する先天的および後天的な諸要因が奇跡的な確率で揃って初めて到達できる領域である。 人類の可能性の限界と言ってもいい。 エリカは若干レベル29にして、そのランクSの能力値を凌駕しているのだ。

「じゃあ、参加しましょうか? サクランヌさん」

「ちょっと待ってエリカちゃん。 マヒュロ、このクエストって他のパーティーと合同でやるクエストなの?」

「そうですね。 なにしろ数百匹ですし、ラットリング退治ではラットリングを逃さないことが大切ですから。 お2人だけでは流石に無理だと思います」

「そっかー。 じゃあ不参加だね」

サクランヌの返答にエリカは驚いた。

「えっ、どうしてですか? 一緒に参加しましょうよー」

「なに言ってるのエリカ、あなたも不参加よ」

「どうして参加しちゃいけないんですか?」

「大勢の人に足並みを揃えるのが苦手なの! このクエストは日帰りじゃないんでしょ? 大量の冒険者と雑魚寝とかムリだし」

「お二人に参加して頂かないと、ハマジリの町が滅亡してしまいます!」

マヒュロは血相を変えてサクランヌを説得し始めた。

説得の甲斐あってサクランヌは、①サクランヌとエリカのテントを他の冒険者と別にする、そして②移動中にサクランヌが疲れたらエリカがサクランヌをおんぶするという2点を条件として、クエストへの参加を了承した。

サクランヌが多人数での行動を好まないのは、平均的な冒険者に比べてサクランヌの体がとても小さいためであるらしかった。 なにしろサクランヌは、身長160cmほどのエリカよりもさらに小柄なのだ。 徒歩での移動1つとっても、サクランヌが大柄な冒険者のペースに合わせて歩くのは大変である。

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