福引きの木⑤

昨夜の夢・目覚めの実・目覚めない実。 これだけの材料が揃っていれば、状況の全体像も結末も明らかである。

「目覚めの実」を食べれば昏睡状態から覚め、「目覚めない実」を食べれば昏睡した状態が続くのだろう。 現実世界の私の体が昏睡状態から目覚めるか目覚めないかの境界線上にあって、どちらになるかを決めるのが私の気持ちしだいということなのかもしれない。

私が昏睡状態から目覚めたら、妻は悲しげな微笑みではなく本物の笑顔を見せてくれることだろう。 その一方で、私は今の幸せな生活を捨てたくない。

3分ほど悩み抜いた末、私は「目覚めない実」と「目覚めの実」の両方を食べることにした。 2つとも美味しかった。


翌朝、私は病院のベッドの上で目覚めた。 昏睡状態から回復したのだ。 「目覚めない実」の効果は無かったようである。 そもそも「福引きの木」自体が夢の中の話だものな。 楽しくリアルな夢を長々と見れてよかった、そう思うことにしよう。

病院からの連絡を受けた妻は、意識を取り戻した私を見て明るい本物の笑顔を見せてくれた。 私が昏睡状態にある間、彼女にどれだけの苦労をかけたことだろうか。 これからは妻を大切にしてやろう。

妻の説明によると、私は自動車事故で1年間ほども昏睡状態にあったそうだ。 私は3ヶ月ほど病院でリハビリを続けたのち、退院して自宅へ戻った。


私の自宅は昏睡状態のときの夢に出てきた家にそっくりだった。 いや、現実の自宅そっくりの家が夢に出てきたと言うべきか。 そして現実の自宅の庭にも、夢に出てきた「福引きの木」にそっくりな木がある。

そういえば、この木は夢の産物というわけじゃないんだよな。 この現実の世界でも、祖母がどこからか入手してきた種を10才の私が実際に庭に植えたのだ。 あの木が20年間にわたり一度も実をつけていないというのも現実の記憶としてある。

昏睡状態で見た夢と現実との共通点に思いを巡らせながら問題の木を眺めていると、その木に小さな実が生っていることに気付いた。 まだ未熟な緑色でサイズも小さいが、明らかに果実である。 数カ月後に実が熟せば食べられそうだ。

これが「目覚めない実」の効果だったりするのかな...?

読了ありがとうございます。 この作品は以上でおしまいです。 次のページからは別の作品になります。

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