疲労感の理由

無数のラットリングの屍が地面に転がる集落の広場。 疲労困憊のエリカがそこで体力の回復に努めていると討伐隊の一行がやって来た。 集落から逃げ出したラットリングの掃討を終えて、エリカを探しに来たらしい。

「エリカさん、お疲れっす」「エリカくんのおかげで無事に討伐が済んだよ」「どうしたんですか? そんなとこに座り込んで」「お疲れー」「エリカさん、怪我はありませんか?」「うわー、すごい返り血ですね、エリカさん」

地面に座り込むエリカの姿を認めて討伐隊のメンバーが口々に声を掛けるなか、サクランヌがエリカのほうへ駆けて来て心配そうに尋ねる。

「エリカちゃん、大丈夫? 何があったの?」

「ちょっとすんごく疲れただけ。 サクランヌさんのほうはどうだった?」

「...問題なかったよ。 エリカちゃんがたくさん倒してくれたから楽勝だった」

「そう。良かった」

◇◆◇◆◇

エリカの疲れ具合があまりにも酷いので、討伐隊はラットリングの元集落で野営することとなった。

サクランヌの要望により、エリカとサクランヌのテントは他の仲間たちと別である。 2人だけのテントの中でサクランヌが悲しげにエリカに問う。

「エリカちゃん、フィートなくなっちゃった?」

「えっ、そうなの?」

エリカは驚きながらも納得していた。 この異常な疲労感も、そう考えれば合点がいく。

「気付いてなかったの?」

「無性に疲れるとは思ってたけど... そう考えれば辻褄が合うわね。『身体能力3倍』のフィートを失ったために体力が落ち、フィートがあったときの超人的な活動で生じた疲労に耐え切れなかった」

「フィートを失った理由に心当たりは?」

「1つあるとすれば、それはあのシャーマンね」

そう言ってエリカは、不気味なラットリング・シャーマンのことをサクランヌに語って聞かせた。

「不気味に嗤うシャーマン... か」

考え込むサクランヌの傍らで、エリカは既に眠りに落ちていた。

◇◆◇◆◇

◇◆◇◆◇

翌朝、エリカの疲労感は治まっていたものの、それによって頭痛・吐き気・目眩(めまい)が生じていることが浮き彫りになった。 昨日は極度の疲弊が、頭痛・吐き気・目眩の存在を覆い隠していたのだ。

エリカは具合が悪そうに横になり、額に右手の甲を押し当てて呟く。

「フィートが失くなっただけじゃなかったの? 身寄りのない異世界でこんなに弱っちゃって、これからどうしよう」

異世界に来てから、エリカは『身体能力3倍』チートのおかげで、この世界で生きて行くことに不安を感じたことはなかった。 しかしエリカは今、体調不良で心が弱っていることもあり今更ながらに不安で一杯だった。

そのときテントの入口がパッと開かれた。 外の光がテント内に差し込む。 テントに入ってきたのはサクランヌだ。

「エリカちゃん、ヒーラーに来てもらったよ」

サクランヌの後に続いて1人の女性がテントに入って来る。 討伐隊のメンバーだ。 名前は覚えていないが顔に見覚えがある。

「具合が悪いそうですね、エリカさん。 頭痛と吐き気だとか。 ちょっと診察してみましょうか」

ヒーラーの女性はそう言ってエリカの額に手を乗せて熱を測ったり、手首を握って脈を取ったりする。 ヒーラーは治癒魔法の使い手であるだけでなく、医学的な知識も持ち合わせているのだ。

診察が終了してヒーラーがエリカとサクランヌに告げる。

「体調不良の原因は呪いです」

それを聞いたエリカの脳裏に、いくつもの疑問が渦巻く。 これは朗報なの? それとも凶報? 呪いって治るものなの? 自然に治る? それともお祓いとか? 呪いはフィート喪失と関係があるの? 呪いをかけたのは、やっぱりあの不気味なシャーマン?

「私には治すことができないので、ハマジリの町で解決法を探すことをお勧めします。 とりあえず、頭痛と吐き気を抑える薬を渡しておきましょう。 副作用があるので連用は禁物ですが」

ヒーラーの言葉を聞いてエリカの胸が塞がる。

「解決法を探すって... 解決法が不明ってことですか?」

「私よりも高レベルのヒーラーなら何か知っているかも知れません」

この人は確かランクBだったはず。 それよりも高レベルのヒーラーなんて、ハマジリの町にいるのかしら? こんな頭痛や吐き気、一週間と耐えられない!

エリカが再び暗澹とした気持ちになりかけたとき、サクランヌが叫んだ。

「呪いなら解けるよ!」

◇◆◇

サクランヌによると、ここからそう遠くない森の中に湧く霊泉があり、その水に呪いを解く効果が期待できるのだという。

「サクランヌさんは何でも知ってるのね」

エリカが明るい表情でそう言う。 解呪の目処が付いてエリカは気分が軽くなっているのだ。

「霊泉と同じ森にシルヴァリンの集落があるんだょ。 呪いが解ければエリカちゃんのフィートも戻るかもしれないね!」

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