エリカの初体験

盗賊団は街道沿いにある廃寺を根城にしている。 住み着いたのは数週間前、それ以来、ハマジリの町と隣町との間を行き交う商人や旅人が略奪・暴行・殺人などの被害に遭っているのだ。

「盗賊を殺すのは私に任せて、エリカちゃんは私を盗賊の攻撃から守るのに専念してね。 突撃してっちゃダメだよ?」

あらかじめエリカに釘を刺しておくサクランヌ。 彼女は『鷹の爪』からエリカの突撃癖について聞いていた。

「大丈夫ですって。 私はバーサーカーなんかじゃありませんから」

サクランヌとの話し合いにおいて『鷹の爪』の戦士トマシェがエリカを「バーサーカー」と評したのがエリカには少しばかりショックだったのである。

「着いたわ。ここね」

街道から逸れてちょっとした山道を登ったところに、その廃寺はあった。

石の階段を登り、2本の石柱に挟まれた入り口に足を踏み入れるエリカとサクランヌ。 サクランヌの水たまりも一緒である。

「エリカ、ちょっと止まって」

寺跡の敷地に足を踏み入れたところでサクランヌがエリカに声をかけた。 そして、水たまりに指示を出す。「ベテベテ、トドデレチョデスパシオ...」

すると水たまりは、2人から離れて寺跡の敷地の奥へと入って行く。

「これって何をやってるんです?」

「まあ、見てなさいって」

水たまりが2人から100メートルほど先へ進んだとき、男たちの声が聞こえる。

「なんだこりゃ?」「水たまりが動いてるぜ」

その声を聞いてサクランヌがにんまりと笑う。

「釣れた釣れたー。 見張りのために潜んでる盗賊がいると思った!」

「不意打ちされると危なかったかもですね。 じゃあ、あの人たちが盗賊かどうか確認してきます」

そう言うとエリカは、あっという間に男たちの声がした辺りまで駆けていった。

「あっ、いたいた。 あなたたち盗賊なんですか?」

エリカに声をかけられたのは、小汚い格好をした2人の中年男性だった。 2人とも手に弓を持ち、腰には短剣を下げている。

「そう尋ねるお嬢ちゃんは何者なんだい?」

「盗賊退治に来た冒険者です」

「その盗賊ってのは」そう言いつつ男は腰の短剣を引き抜き、「オレたちのことなんだろうなあ」と叫びながらエリカに飛びかかってきた。

男の踏み込みも剣速もエリカにとってスローモーション同然であった。 サイドステップで男の攻撃を易々とかわすと、エリカは男の首を神剣であっさりと斬り落とした。

背後からもう1人の盗賊もほぼ同時に短剣をエリカの背中に突き立てようと襲いかかっていたが、エリカはその攻撃を予期していたかのようにクルリと振り向きざまにしゃがみこみ盗賊の腰部を切断した。

地面に横たわる2つの死体。 切断面からはおびただしい量の血が溢れ出ている。

「殺しちゃった...」

エリカ初めての殺人、である。 しかしエリカは特に何も感じなかった。 ラットリングを殺すのと大差ない。 エリカの感想はその程度であった。



エリカは後方にいるサクランヌに大声で報告する。

「サクランヌさーん、2人とも殺しちゃったんですけど大丈夫でしょうか?」

サクランヌはエリカのほうに向かって歩きながら、同様に大声で答える。

「ダイジョーブ。 盗賊なんて捕まえて官憲に引き渡しても、どうせ死刑だもん。 それより大声を出しちゃダメだよー。 盗賊団に聞こえちゃうからー。 見張りを倒した意味ないじゃん!」

「サクランヌさんだって大声じゃん」

「エリカが大声を出したから、もう声を抑えても意味ないもん」

大声で会話を続けるエリカとサクランヌ。

そこに第三の声が交じる。「サクランヌちゃんの言う通りだよ」 野太い男の声である。

ギョッと凍りついて互いを見るエリカとサクランヌ。 「誰なの? 今の声」

2人が硬直した隙を付くかのように、サクランヌの横合いの物陰から大男が飛び出して来た。

「あんまり盗賊団を舐めてっと酷い目に遭わされるぞ」 大男はそう叫びながらサクランヌに掴みかかる。「こんな風になぁっ!」

エリカの現在地はサクランヌからほど遠い。 サクランヌの武器である水たまりも同様だ。 したがってサクランヌは無防備な状態で大男の魔の手にさらされている。

大男はサクランヌを捕まえてエリカに対する人質にするつもりだろうか? それとも殺してしまう?

人質にするのならまだチャンスはある。 機会を見つけてサクランヌを奪回しよう。 サクランヌを殺すというのなら、殺すというのなら... サクランヌに危害を加える者は許さない! エリカが剣の柄を握る手に力がこもる。

しかし次の瞬間、仮定に基づくエリカの怒りは肩透かしを食らった。 襲いかかる大男に動じることなくサクランヌが呪文を唱えたのだ。

「ダメウナコパデアグァ!」

呪文が効果を発揮し、両手で喉を押さえて苦しみ始める大男。 苦しそうに胸の辺りを掻きむしり、大男は地面に倒れ、なおも苦しみ続ける。

エリカがサクランヌのもとへ駆け戻ってからも大男は苦しんでいたが、やがて死んだように動かなくなった。

「サクランヌさん... 水たまり以外の魔法も使えたんですね」

「水を発生させる魔法だょー。 コイツの呼吸器の辺りに水を作り出したんだ。 マナの消費量が多いから、あまり使いたくないんだけどね」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です