挑戦されるエリカ

ラットリング討伐へと出発する当日。

冒険者ギルドの一室に、エリカとサクランヌのパーティーに加えて、ランクBパーティーが1つとランクCパーティーが3つが集まっていた。 マヒュロが必死にかき集めた総勢20人である。

絶対数が少ないランクB以上はともかくランクC以下の冒険者は手の空いている者も多かったのだが、彼らは稀に見る規模の討伐対象に恐れをなして作戦を敬遠したのだ。

今回のクエストのターゲットは、トノサマ・ラットリングが率いる数百匹のラットリング。 ラットリング2匹に対応するのが精一杯のランクC冒険者が怖気づくのも無理はない。

マヒュロはランクSオーバーの能力を誇るエリカの存在を説得材料として参加者を集めようとしたが、急速に力を付けたエリカの実力があまり知られていないため首を縦に振る冒険者は少なかった。



「...説明は以上だ。 我々の働きにハマジリの町の命運がかかっている。 諸君の奮闘を期待する!」

ランクB冒険者のフスティンが、今回のクエストの説明をそう締めくくった。 彼が今回の作戦の総リーダーを務めるのだ。 戦闘能力を基準に考えるならエリカかサクランヌがリーダーにふさわしいのだが、エリカは戦闘以外の面でまだまだ新米だし、サクランヌは社交性に問題がある。 彼女たちにリーダーは任せられない。

「マヒュロさんが言ってたエリカってのはアンタか?」

フスティンの話が終わり騒がしくなった部屋で、他のメンバーから離れてサクランヌと座っていたエリカに、そう声をかけるものがいた。

声をかけてきたのはスキンヘッドの巨漢だ。 体全体が丸々と肥えているのに、頬だけは肉を削ぎ落としたように精悍で、両目は常に軽く殺気を漂わせている。

「なんの用かしら?」

「アンタがエリカなんだな? どんなごつい女なのかと思っていたが、あんた本当にSランク・オーバーの実力者なのか?」

「ギルドの検査では、そういう数値だったわ」

「その貧相な体でか? どうにも信じられねえんだがな」

「なんなら、あなたの体で私の強さを確認させてあげましょうか?」

巨漢の言葉に反応して好戦的なセリフを放つエリカ。 巨漢が自分の上半身の特定の部分のサイズを評して「貧相」という言葉を使ったような気がしたためだ。 もちろんそれは被害妄想であり、エリカにもその自覚がある。 だが、繊細な乙女心はエリカ自身にも御しきれないのだ。

「おいおいエリカくん、揉め事は困るぞ」

ヒートアップしたエリカの声を聞きつけたフスティンがやって来た。

「因縁を付けてきたのはあっちよ。 私は悪くない」

「オレはこの女の実力が本物か心配だっただけだ」

「言い方ってもんがあるでしょうがっ! 『貧相』だなんて言葉、決して女性に使ってはならないわ」

自分の胸までの背丈しか無いエリカに裂帛を叩きつけられて、巨漢はビクンと身をすくませる。 酷薄な彼の顔つきが弱気なものとなり、目に漂っていた殺気も霧散している。 なんだこの女? 話しかけたときとはまるで別人じゃねえか。 外見からは信じられねえが、やっぱりランクSオーバーなのか...?

巨漢本人は気付いていないが、彼がビビったのはエリカが放った怒声から彼女の身体能力の異常な高さを感じ取ったからである。

巨漢がビビったのにはもう1つ理由がある。 エリカのオーラだ。 エリカの裂帛に込められた鋭気や身に纏う怒気もオーラの一種である。 エリカはオーラを操るスキルなど持ち合わせていないが、彼女ほどに身体能力が高いと横溢する生命力が自然と周囲の人に影響を及ぼすことがあるのだ。

「わ、わかった。 オレが悪かった、エリカ... さん」

「わかればいいわ。 今後、『貧相』という言葉は封印することね」

「剣を交えていないが彼女の実力を体感できたようだな、ラヒート」とフスティン。 ラヒートとは巨漢の名だ。


フスティンはラヒートからエリカに視線を移して言う。

「討伐隊のリーダーとして君の実力を把握しておきたいんだが、手合わせしてもらえるかな?」

「いいわよ。 訓練場に移動しましょうか」

訓練場に移動するエリカとフスティン。 エリカとフスティンが試合をすると聞いて、討伐隊参加者の大部分も2人の後を付いて来る。 訓練場にいた他の冒険者たちも何事かと観戦の輪に加わった。

「木刀で試合うとするか。 クエスト前に怪我をするとまずい」

そう言ってフスティンはエリカに木刀を渡す。

エリカは黙って木刀を受け取り、フスティンと対峙する。

「じゃあ私が審判をするね」とサクランヌ。「はい、試合開始~」

サクランヌが試合開始を宣言した次の瞬間、フスティンの喉元にエリカの木刀の切先がピタリと押し当てられていた。 剣先から放出される威圧感にフスティンは身動き1つできず、彼の頬を一筋の汗がツーっと流れる。

「はい、エリカちゃんの勝ち~」

あっけなさすぎる決着にフスティンは呆然と押し黙る。 しかしこれは当然の結果である、エリカの能力値はフスティンのざっと2倍なのだから。

観戦していた冒険者たちは敗北した討伐隊リーダーに気を使いながら静かにどよめいた。

「あの女戦士の動きがまったく見えなかったぜ...」「あっけなさすぎる」「もっと盛り上げろ」「ひねりが足りないんだよ」「だから人気が出ないのさ」「ランクBのフスティンさんが手も足も出ないとは」

しばらくしてショックから立ち直ったフスティン。 エリカに試合後の握手を求めながら言う。

「ここまで実力差があったとは正直言ってショックだが、仲間としてはとても心強い。 ラットリング討伐では頼りにさせてもらうよ」

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