決闘

昔話に花を咲かせるサクランヌとベイジン。 エリカは会話に付いて行けない。

サクランヌっていったい何才なんだろう? エリカがそんなことを考えながら二杯目の中ジョッキをグビグビと飲んでいると、新たに4人の客が酒場にやって来た。

4人は全員とも冒険者の装いで、先頭を歩くのはミディアム・ショートの金髪がちょっと素敵なエリカ好みの戦士だ。

金髪の戦士はつかつかとエリカたちのテーブルまでやって来ると、エリカのまとわりつくような視線を気にも留めず、ジムロに向かって言葉を叩きつけた。

「ベイジン、お前に決闘を申し込む!」

申し込まれたベイジンは落ち着いた口調で答える。

「何故だ?」

「5年前のことを忘れたとは言わせんぞ」

「今さらか。 お前も執念深いのう、フスティン」

金髪ミディアム・ショートの名前はフスティンというらしい。

「執念深いだと?」 ふん、と鼻で笑うフスティン。「計画性があると言ってもらおうか。オレはこの5年間で力を付け、昨日ランクBに昇格した!」

「冒険者を引退した年寄りを狙うとは、せこい奴だ」

「せこいだと? オマエがオレにそれを言うのか? 5年前、遥かに格下だったオレを叩きのめし、女を奪い去ったはどこのどいつだ!」

「オレが奪ったわけじゃない。 あいつがオレを選んだんだ。 それにあの頃、お前の振る舞いは目に余るものがあった」

「言い訳をするな。 5年前には2倍の開きがあった能力差も今なら互角。 期は熟した。 いざ正々堂々と勝負しろ!」

「正々堂々だと? 年を取り引退したオレの戦闘力は衰える一方だが、お前は今やランクB。 自分に有利な状況となるのを何年も待ち構えたオマエが正々堂々などという言葉を使うな。 お前と決闘する理由など、もう時効で消え失せておるわ」

「決闘の理由に時効なぞ無い。 それにだ、オレに有利な状況になったんじゃない。 互角の状況になったんだ! 5年前が不公平だったんだ! それともお前は弱い者イジメしか出来ないのか、老いぼれ」

「そもそも弱い者イジメをしていたのお前だろう、フスティン」

白熱する議論に我関せずとエリカはビールのお代わりを注文した。 おつまみはピーナッツ。 ビールのつまみには枝豆よりもピーナッツがいい。 ピーナッツは枝豆と違って乾燥しているから、ビールの美味しさを引き立ててくれるのだ。

「違う! オレは弱い者イジメをしていた者を懲らしめただけだ」

「お前に弱い者イジメされた者も、そもそも弱い者イジメしていた者を懲らしめただけだと聞くがな」

話が込み入ってきた。 その場に居に合わせた全員がそう思い始めたとき、サクランヌが口を開いた。

「もういいじゃん、決闘しちゃいなよベイジン。 どうせ、そのフスティンに弱い者イジメされた人にイジメられてた人にイジメられてた人も誰か別の弱い人をイジメてたんでしょ?」

「その通りだ。 たしか、ランクFの冒険者が町の子供をイジメていたんだとか」

「その町の子供とやらがガキ大将でイジメっ子だったと聞いているぞ。 10才にして大人並みの体格だったとか...」

「もー。 ぐだぐだ言ってないで、さっさと決闘しちゃいな。 ただし、木刀でね」

サクランヌの鶴の一声で、ベイジンとフスティンが決闘することに決まった。



冒険者ギルドの訓練場に移動するベイジンとフスティン。 2人の決闘を見物しようと多数の冒険者がゾロゾロと付いて行く。 エリカとサクランヌも付いていく。

訓練場の中央でベイジンとフスティンがそれぞれ木刀を手にして向かい合うと、どちらからともなく戦いが始まった。 フットワークやフェイントを駆使し、木刀で突いたり薙いだりして戦う両者。

ランクBはレベル50以上に、そしてランクAはレベル80以上に相当する。 しかしエリカの見たところ、元ランクAのベイジンが現役ランクBのフスティンに押され気味だ。 膂力も反応速度もフスティンのほうが上である。 ベイジンはひとえに、彼をランクAたらしめた剣技のおかげでフスティンの猛攻を耐えしのげている。

エリカがこのようにベイジンとフスティンの戦いぶりを見極める一方で、決闘を見物するギャラリーの大部分は両者の人間離れした戦いぶりを把握できていなかった。

「2人ともすげえスピードだ」「何が起こってるのかよくわからない」「常人の4倍の速度での戦いだもんな」

決着はあっけなくついた。 フスティンの振るう木刀がベイジンの頭部をまともに捉えたのだ。 フスティンの木刀が砕け散り、ベイジンが昏倒する。

ギャラリーからどよめきが起こる中、フスティンは快哉を叫んだ。

「よしっ、オレの勝ちだ!」

ベイジンは気を失っているが死んではいない。 高ランク冒険者は体も頑丈だし、木刀が砕け散ったことでベイジンの頭部に加わる衝撃は減っている。

しばらくするとベイジンが意識を回復し、両手を地面に突いて上半身を起こす。 そのベイジンにフスティンが勝ち誇ったように宣言する。

「オレの勝ちだ。 互角の戦いならオレのほうが強いんだ。 オレのほうがオマエよりも優秀なんだ!」

ベイジンは言い返す気力も無いようで、物憂げに立ち上がると訓練場を出て行こうとする。

そのベイジンの背中にサクランヌが声をかけた。

「ゴメンねベイジン、決闘を押し付けちゃって。 まさかランクBに負けるなんて思わなかったんだ」

ベイジンは肩越しに振り返り答える。

「人間は老いるんだ。 お前と違ってな」

そしてベイジンは1人寂しく訓練場を去って行った。

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