ボスとの戦い

水たまりにやられて地面に転がりもがき苦しむ盗賊たち。 すでにピクリとも動かない者もいる。

そんな中をエリカたちめがけて疾走して来る者がいた。 盗賊団のボスだ。 槍を片手に、エリカに匹敵する速度で水たまり地帯を駆け抜けて来る。 彼の持つ槍の穂先は青白く輝いている。 彼の槍は魔法の武器なのだ。

ボスの速度にはサクランヌ愛用の水たまりも追いつけず、彼は水たまりに取り付かれることなくエリカたちの所までやって来た。 そして疾走の勢いもそのままに、エリカの剣のリーチの外から槍の攻撃を繰り出した。 槍の穂先がエリカの足元に鋭く迫る!

ボスが至近に迫ってきたときエリカは、青白く輝く槍の穂先に気を取られていた。 あら、素敵な光。 夜だったらもっと綺麗に見えそう。

エリカは油断していたのだ。 ボスの疾走を見て彼の身体能力の高さに気づいてはいたものの、心のどこかでボスのことを見下していた。 私より強いはずがない、と。 そしてエリカは高慢さの代償を支払うことになる。

ボスの槍の穂先が思わぬ鋭さでスルスルと自分のほうへ向かって突き出されてくる。 エリカが苦手とする足元への攻撃だ。 ジャンプして攻撃をかわすエリカ。 しかしその行動は安直だった。 ボスはエリカの行動を予測していたかのように槍の穂先を跳ね上げ、エリカの太ももを革鎧の上から痛撃した。

「痛っ!」 鋭く尖る穂先はなぜか革鎧を貫いていない。 だがそれでも、大腿骨の芯に響くような痛みに打ちのめされてエリカの動きが止まる。

その隙を見逃すボスではない。 彼はエリカの腹部めがけて槍を立て続けに3度繰り出した。 3つの突きが凄まじい勢いでほぼ同時にエリカの腹をまともに捉え、エリカはくの字になって後ろに吹き飛んだ。「くうっ」

エリカに匹敵する膂力による攻撃をまともに食らって、エリカのダメージは甚大である。 内臓が破裂しているかもしれない。 が、やはり穂先がエリカの革鎧を貫いた様子はない。 エリカは左手でお腹を抑えて呻きながら立ち上がる。

「なんなんだ、オマエのその鎧は?」

問わずにはいられない、そんな面持ちでボスが尋ねた。

ボスの槍には先鋭化の魔法がかかっている。 革鎧ごとき貫けないはずがないのだ。 それなのに、槍はエリカの革鎧を貫通しない。 エリカにダメージを与えてはいるが、それは刺し傷ではなく打撲傷でしかない。

「私にもわからないわ」

エリカはそう答えながら剣を構える。

互いに警戒心を高めて対峙するエリカとボス。

そして、どちらからともなく攻撃をしかけ合う。

エリカはダメージを負っているが、ボスはなぜか動きに精彩がない。 まるで、さきほどの槍の三連撃でエネルギーを使い果たしてしまったかのようである。

しばしのあいだ丁々発止の戦いを繰り広げる2人。 どちらがこの勝負に勝つか予断を許さない。 そう思われたのはしかし、束の間に過ぎなかった。 ボスがエリカの動きに付いて行けなくなったのだ。

それでもボスは必死の形相でエリカの攻撃をしのいでいたが、やがてエリカの運動量に押されて攻撃をさばき切れなくなった。 それに焦ったボスは少しばかり雑に槍を大振りしてしまう。

エリカはその雑な動きを見逃さなかった。 落ち着いた様子でその槍先をかわすと俊敏にボスの横に回り込む。 ボスはエリカの目前にさらけ出される自分の無防備な首筋を痛いほど自覚し、死を確信する。 しかし疲労の限界に達した彼の筋肉は動こうとしない。 「くっ」 ボスの精悍な顎先から汗が滴り落ちる。

その汗が地面に到達するのを待たずして、エリカの剣はボスの首を一刀のもとに斬り落としていた。


「ふー、疲れたー」

エリカは大きく息を吐き出して地面に座り込んだ。 すぐ隣にはボスの死体が転がっている。

「お疲れー、エリカちゃん」

「サクランヌさんもお疲れー」

実はまだ生き残っている盗賊が何人かいるのだが、2人は気にも留めない。 放っておけばどこかに逃げて行くだろう。

「これでランクCクエストなんですか? 難易度高すぎませんか? 盗賊の数は多いしボスは強いし...」

「んー、普通はランクCパーティーが6人でやるような仕事だしー。 普通はもっと慎重にやるからね。 エリカちゃんみたいに大声出す人はまずいないよ? でもボスは強かったね」

「強かったですー。 途中で急に動きが悪くなったんで助かりましたけど」

「そだね」

「この人...」とエリカがボスの死体を指差して言う。「どうして野盗なんてやってたんでしょう? あれだけ強ければ冒険者として稼げたはずなのに」

「なんか事情があったんじゃない? 後ろ暗いことがあって冒険者ギルドに登録できないとか」

サクランヌはそう言って、ボスを初めて1人の人間として認識したかのように死体のほうに目をやる。

「あれ? コイツの死体、なんか老けてきてない?」

そう言われたエリカがボスの死体を改めて見ると、エリカと戦っていたときよりも確かに皮膚が老けているように見える。 肌のハリとうるおいが失われ、シワが増えているようなのだ。 他の死体に比べても血色が悪い。

「ほんとだ、なんだか気味が悪いですね。 場所を変えましょうよ」

「といってもどこも死体だらけだしねえ。 もう休息は打ち切って、さっさと本堂の中を調査しちゃおう」

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