バトル

「エリカちゃん、フィートが戻ったんだね!」

サクランヌの声を背に受けて、エリカは地面から体を起こして立ち上がる。

密猟団7人のうち3人は、すでに失神して横たわっている。 エリカの見たところ、残る4人のうち密猟団の隊長はランクB相当だが、他の4人はランクC~Dといったところだ。

エリカは革鎧を脱がされ神剣も隊長に取り上げられてしまっているが、『身体能力3倍』が復活した彼女は恐れ気もなく5人の男と素手で対峙する。

「何が起きたんだ?」「この女、急に強くなりやがった」「トドロスアスントスティエネン...」「この女、強いぞ。 用心しろ!」

突如として強くなったエリカに四者四様の反応を示す男たち。 呪文を唱え始めている者も1人混じっている。 どういった呪文かは不明だが、なかなかに状況判断が早いと言える。

エリカはまず、呪文を唱えている魔法使いをぶっ飛ばした。 何も特別なことはしていない。 大きく数歩踏み込んで、彼の横っ面に掌底(しょうてい)を叩き込んだだけである。 しかし、その場の誰もエリカの動きに対して対応できなかった。 魔法使いは掌底をまともに食らって数メートルの距離を吹っ飛び、泡を吹いて失神する。

魔法使いを一撃で沈めたエリカ。 その彼女の背後に回り込む者がいる。 隊長だ。 隊長はエリカから強奪した神剣を振りかぶり、エリカ目がけて振り下ろさんとしている。

ご存知のように神剣は、それを振るう者の強さによって切れ味を変える。 ランクBの隊長が振るう神剣はエリカの肉体を容易に切断するだろう。 そのうえエリカは今、女神様にもらった革鎧を身に着けていない。

鋭利に光る金色の刃が無防備なエリカの肩に振り下ろされる。 エリカが気付いてさえいれば十分に回避可能な剣速だが、エリカは背後に刃が迫るのを知らない。

「エリカちゃん、後ろ!」

サクランヌの悲鳴にエリカが反射的に後ろを振り向くと、背後にそびえ立つ人影。 視界の上のほうから金色の何かが自分の頭上を目がけて容赦なく振り下ろされて来る。

神剣だ! 真剣白刃取りをしてみる? ダメダメ、失敗したら大惨事。 こっちのほうが確実!

エリカは瞬時に隊長との距離を詰めると、両腕をクロスさせて隊長が剣を振り下ろす腕を頭上でガッシリと受け止めた。

エリカが交差させた両腕を激しい衝撃が襲い、ズシッと加わる重量にエリカの全身が軋む。 隊長の一撃の重量がエリカの腕から胴体そして脚を伝わり、湿った地面にエリカの足型を付ける。

体重90kg超のランクB戦士が生み出す衝撃は大変なものである。 常人であれば衝撃に耐えきれず、全身の筋肉と関節を損傷したうえで体を地面に叩きつけられてしまう。 しかし、エリカは平気な顔でその衝撃を受け止めている。

「ぬうっ」

隊長は剣を持つ右手に意地を込めてギリギリと体重を乗せる。 小柄なエリカが自分の一撃に耐えたのが気に食わないのだ。

隊長の力比べの相手を務めるエリカの背後に3人の手下が接近し、サクランヌがまた悲鳴を上げた。

「エリカちゃん、後ろ!」

サクランヌの声を聞いたエリカは、スッとその身を沈めた。 エリカという支えを急に失って、隊長は前につんのめる。 エリカはその機を逃さず、隊長の懐に入り込むと鋭く体を回転させ、左肘を隊長の左脇腹に叩きつけた。「かはっ」 腹を強く叩かれて肺腑を空にする隊長。

エリカは動きが止まった隊長の懐から抜け出ると、背後から迫る3人に襲いかかり次々と気絶させていった。 エリカの身体能力は彼らの3~4倍、素手の彼女ですら彼らの手に負える存在ではなかった

◇◆◇

◇◆◇

密猟団7人のうち6人はエリカの手によって既に気を失っている。 まだ失神していないのは隊長のみ。 その彼が吐き捨てるように言う。

「クソッ、疫病神みてえな女だ。 寸胴(ずんどう)女の分際で問題を引き起こしやがる」

隊長の身勝手な言い分に当然エリカは腹を立てた。

(勝手に私をさらっといてコイツは何を言っているのかしら? 誰もさらってくれなんて頼んでないわっ! 私がズンドウですって? 余計なお世話よ! コイツは、なんて、なんて自分勝手で腹の立つ男なのかしらっ!)

エリカの頭の中にグルグルと怒りがうずまくが、頭に血が上っている彼女は、隊長にピシャリと言い返す効果的なヒトコトを思い付けない。 そこでエリカは言葉の代わりに打撃を隊長に叩きつけてやることにした。 不言実行、それは彼女の美徳の1つである。

怒りに身を任せ、エリカは隊長に突撃する。 隊長はエリカを待ち構えて神剣を振るうが、エリカの筋力も反射速度も隊長の2倍である。 隊長の剣撃をかわすことなど造作もない。 エリカはサイド・ステップで攻撃をかわすと、隊長の左足にローキックをぶち込んだ。

隊長は「ぐっ」と呻きつつ今度は横薙ぎに剣を振るうが、エリカはバック・ステップでそれを回避する。 そして即座に間合いを詰め直し、今度は隊長の右足にローキック。

かようにしてエリカは、隊長の攻撃を余裕で回避しつつ何度も打撃を加えた。 が、隊長がなかなか倒れない。 「ぐっ」とか「うっ」あるいは「ぐおっ」といった声は出ているので、隊長にダメージを与えてはいるはずなのだが...

◇◆◇

2人の戦闘に束の間の中断が訪れたとき、隊長は左の鼻の穴から垂れる血を拭いながら言う。

「女、オマエの攻撃など効かん。 オマエの攻撃は軽いんだ。 見逃してやるから、もう町へ帰れ」

エリカの攻撃が隊長に効かないというのは丸っきりの嘘でもない。 エリカは身体能力は高いものの体重は隊長の半分ほどでしかない。 そして素手での攻撃の多くはキックにしてもパンチにしても体重が大きな意味を持つ。 体重が軽いエリカは、刃物を用いてこそランクSオーバーの真価を発揮できるのだ。

しかし、エリカは隊長の言葉に再び怒りを燃やし始める。

(またこの男は勝手なことばかり。 本当に忌々しい。 私のほうが強いのに『見逃してやる』ですって? 私が弱ってたときコイツに『見逃してやる』なんて言っていたら、コイツは私を殺していたでしょうに。 人をさらっておいて『町へ帰れ』ですって? 私の攻撃が軽い? じゃあ軽くないところを見せてあげるわっ!)

怒気をその身にまとい、ドっ正面から隊長に特攻するエリカ。 愚直さもまた、エリカの主要な美徳の1つである。 隊長はエリカの到来をドッシリと待ち構え、エリカが攻撃範囲に入った刹那、エリカの脳天めがけて神剣を振り下ろした。

エリカは、剣を振るう隊長の右腕の横をバシッと叩いて剣の軌道を逸らす。 当然のことながら体勢を崩す隊長。 エリカにとっては絶好の攻撃チャンス! だが実のところ、こんな状況はこれまでにも幾度かあった。 そして、エリカはそのチャンスに隊長を倒せていない。

隊長は皮鎧を身に着けているため、体重の軽いエリカが胴体に攻撃しても隊長には効き目がない。 そのため彼女の有効な攻撃ターゲットは彼の頭部に限定されるが、隊長もそのことを知っていて頭部を集中的に防御するのである。 隊長との身長差もあって、エリカはここまで隊長に決定的なダメージを与えられずにいた。

エリカとしては隊長の手から神剣を奪うのが上策なわけだが、エリカはそうしなかった。 「ズンドウ女は攻撃が軽い」と隊長に言われて意地になっていたのだ。

エリカはどうしたのか? エリカは素早くジャンプして隊長の顔にしがみ付いた。 隊長は飛びついて来るエリカを左腕で払いのけようとしたが、エリカはその左腕を両腕で払いのけて、隊長の顔を抱くようにしてしがみ付いた。

めでたく隊長の顔にしがみ付いたエリカは、彼の頭部を支点に自分の体をさらに持ち上げ、隊長の左右の肩に左右の足を乗せた。 エリカの股間と隊長の顔面が向き合う格好である。

そしてエリカは両の太腿に力を込めて隊長の頭部を締め上げると、腰・背中・肩・腕の筋肉を総動員して隊長の頭頂部めがけて右肘を勢いよく打ち落とした。 エリカは頭頂部への攻撃の効果に味をしめていたのだ。 隊長の頭頂部にエリカの右肘が激突し、ゴスッと物凄い音がする。

「ごあッ」という悲鳴を発する隊長の頭部を解放してエリカがスタッと地面に降り立つと、隊長の体は前のめりに倒れ始め、やがてズシーンと重々しい音を立てて地面に崩れ落ちた。

「誰の攻撃が軽いですって? 言ってご覧なさい」

エリカは遅ればせながら言い返したが、言い返される側の隊長はすでに死んでいた。 エリカの強烈なエルボー攻撃により、彼は頭蓋骨が陥没していたのである。

「エリカちゃん、ソイツもう死んでるよ」

「あらっ、そうなの。 まあ死んで当然だし構わないわよね」

「そうだねっ」

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