クエストが終わって

ラットリングを退治の報酬は80万ゴールドだった。 これは『鷹の爪』に支払われる金額なので、1人あたりは16万ゴールドだ。 16万ゴールドは日本円にして約16万円である。

「わー、こんなに貰えるんですか? 時給5万ゴールドじゃないですか。 ボロ儲けですね」

「あんたの命って安いんだね」と女魔法使いマクランド。

「命を売ったりしてませんけど?」

マクランドの言葉の意味がわからずキョトンとするエリカにパグルが説明する。

「マクランドは、命を賭けて戦ったんだから時給5万ゴールドでもボロ儲けなんかじゃないって言いたいんだよ」

「え、命なんか賭けませんでしたよ?」

エリカの言葉にパグルは閉口し、代わりに戦士トマシェが口を開く。

「ラットリング相手じゃ無理もないが、お前は戦闘ってものを舐めきっているな。 今日の戦いも身体能力に物を言わせて力任せに暴れただけだ。 剣技も戦術もゼロ。 素人同然だ」

トマシェに指摘されるまでもなくエリカは冒険者として素人である。 冒険者登録したばかりなのだから当然だ。 しかし、それをこのようにバッサリと指摘されるとトマシェが自分に何か含むところがあるのかと思ってしまう。

何か言い返してやろうと考えるエリカにギルド職員マヒュロが傍らから声をかける。

「エリカちゃん、冒険者ギルドが実施している初心者用の訓練プログラムに参加してみないかい?」

「えー、訓練プログラムですかー?」

「身体能力だけでラットリングを蹴散らすエリカちゃんが少しでも剣技を身に付けたらスゴイことになると思うんだ。 訓練費用は実費だけでいいし、今回のラットリング退治の報酬があるから1週間ぐらいはクエストをしなくても生活に困らないだろう?」

「そっかー、スゴイことになるのかー」 マヒュロの言葉に心を動かされたエリカがパーティー・リーダーであるパグルの顔を窺うと、彼はマヒュロの提案に賛成のようだ。

「実戦で腕を磨くにも、最低限の基礎技術があるほうが効率的だからね。 オレたちは難易度が低めのクエストをやりながらエリカちゃんの復帰を楽しみに待つことにするよ」

「訓練プログラムで冒険者の心構えが少しでも身に付くといいながな」 トマシェは相変わらず愛想のかけらもなかった。



訓練プログラムの初日にはステータス検査が実施された。 検査結果を見ると、エリカはレベルが1から一気に4まで上がっていた。 前回のラットリング退治でエリカがレベル1でありながらラットリングを何匹も倒したためだろう。

モンスターの中では最弱の部類であるラットリングといえど、普通はレベル1の戦士が1人で何匹も倒せたりはしないものだ。 だから、レベル1の戦士が一気にレベル4まで上がるなど前代未聞である。

エリカは身体能力の高さゆえに一度のクエストで大量の経験値を得られるわけだ。 ただでさえ強いのに、その強さゆえに成長速度が速いのである。

そして、訓練プログラムに参加したことでエリカの剣の技術は劇的に向上した。

訓練プログラムでエリカは他の訓練生たちと共に、剣の握り方/振り方・立ち方・足さばきなど基礎の基礎から教わった。 ラットリングと戦ったとき、もっと言えばその前に草原ウナギと戦ったときにも、エリカは剣の握り方から間違っていたのである。

むろん1週間やそこらの訓練だけで剣技の習得にまでいたるはずもなかったが、それでもエリカの剣術は大幅に改善された。 元がとてもひどかったので、本当に基本的なところを大体において直すだけでも大層な効果があったのだ。

訓練プログラムでは剣技以外にも、防具の活用法・装備の手入れの仕方・野営の方法・馬の乗り方など冒険者として必要な技術を一通り教わった。

1週間後、訓練プログラムを完了したエリカは一人前の初心者冒険者となっていた。 身体能力以外の面でようやく冒険者としてスタートラインに立ったわけである。

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