福引きの木①

20年前、私が10才のとき庭に植えた種から育った木に今年初めて果実が1つ生(な)った。 スモモの実に似た果実だが、木の名前を知らないので食べられるかどうか不明だ。 種は祖母がどこからか手に入れてきたものだ。 祖母がどうやって種を入手したのかは聞いていない。 聞いたかもしれないが覚えていない。

正体不明の木に生った果実を食べるつもりはなかったのだが、果実からは食用であることを訴えかけるような芳香が漂って来る。 真っ赤な果皮とプリプリとした肉付きがジューシーな果肉を予感させる。

この果実が食べられるなら放置するのはもったいない。 とりあえず果実を切って果肉を見てみよう。 そう考えた私は、真っ赤な果実を収穫して包丁で切ってみることにした。

面倒なので皮を剥かずに実を少し切り取る。 包丁を入れたときの手応えはリンゴ並みだ。 切り取った果肉は桜色で、良い香りを放っている。

やはりこれは食べられるんじゃないか? 私は舌を突き出して、切り取った果肉をチロッと舐めてみた。 すると、ほどよい甘味と酸味が感じられる。 食べても大丈夫だろうと判断し、果肉を口に含み一噛み。 普通に美味しい。

このように美味しい果実が食用でないのは自然界の掟に反する。この果実は食用で確定だ。 私は包丁をマナ板に置き、正体不明の果実にかぶり付いた。 果肉を噛むと充実した味わいの果汁が溢れ出し口内を満たす。 シャクシャクとした歯ごたえも心地よい。 私は夢中で果実を食べ終えた。


私は株式投資をやっている。 といっても趣味の範囲内であり大金を投じてはいない。 夕食も済んだし、今日も株価のチェックをしようか。 長期的なスパンでの投資あるが株価の毎日チェックを欠かさないのだ。

PCを起動して、いつものように証券会社のサイトにログインする。 PC画面には複数の株価チャートが表示されており、そのうちの幾つかは私の持ち株のチャートである。

表示されているチャートの値動きにざっと目を通していく。 持ち株のうちの1つニポン航空のチャートを見たとき、この株を直ちに手放したいという衝動が私を襲った。 それは「株価が下がる気がする」とか「株価が下がると私の直感が告げている」といった類の曖昧な予感ではなく、「株価が下がることを知っている」という確信だった。

確信に基づき私は、迷うことなくニポン航空の持ち株を売却した。 300株を120万円ほどで買ったのを同じく120万円ほどで売ったので手数料分を損したことになるが、売却の手続きを終えた後も私は売却を一瞬たりとも後悔することはなかった。

その日の夜、私は「正しいことをした」という安心感に包まれてぐっすりと眠った。


2日後、ニポン航空の飛行機が墜落した。 兵庫県に所在する大阪国際空港から離陸したニポン航空の飛行機が、離陸直後にエンジン・トラブルを起こして県内の小学校の校舎に墜落したのである。

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